YOU COULD Be MINE.
Romancing Sa・Ga.
05. 寄る辺なき者たち。☆
夜が更けてから突然降り出した雨が一向に治まらず、更にひどくなり外は土砂降りとなっていた。
一行は食事を終えると早々と宿へと引き上げた。今日はガレサステップへの往復によりとにかくへとへとに疲れ果てていて、全員早くベッドに入りたいと思っていたからだった。
宿では個室をとるより割安ということで、男女は分かれ、それぞれ入れる大部屋を取っていた。アイシャとクローディアも同じ部屋で眠ることにしたのだが、アイシャは部屋に入り宿のベッドを見ると、思わず昨晩のことを思い出してしまっていた。そして、胸が痛かった。どうしてこんなに、胸が痛いんだろう……。
「……どうかしたの?」
ベッドの前で立ち尽くし複雑な表情を浮かべるアイシャを見て、クローディアはそっと尋ねた。その声にアイシャはハッと我に返ると、
「ん、ううん、何でもないの」
と発すると、あわてて上着を脱いだ。
「あたし、疲れたからもう寝るね。クローディア、今日はありがとう……あたしのために」
アイシャはそう言うと、早々にベッドに入った。
「そんなこと気にしなくてもいいのよ。―お休みなさい」
クローディアも、アイシャを気づかっているのか言葉少なに告げると、すぐに彼女もベッドに這入っていった。
「おやすみ……なさい」
アイシャが挨拶すると間も無く、彼女も実は相当疲れていたのか、すぐにスースーと規則的な寝息を立て始めていた。
彼女が寝息を立て始めて一時間ほどした頃だろうか―。
アイシャは突如、ばちりと目を開けた。そして、クローディアに見つからないようにと忍び足でそっと部屋を出て行ったのだ。
雨音が手伝ってか、気取られることは幸いなかった。そして彼女は躊躇いがちな足取りで、宿の廊下の薄明かりの中を行く。
その足がやがて立ち止まったのは、三人の男たちの眠る部屋の前だった。しかし、彼女はそのドアの前でしばし立ち尽くしてしまっていた。何度か扉をノックをしようと手を伸ばしかけて引っ込めたり、何かを考える仕草をしたり。
やがてアイシャは首を軽く左右に振る。また元の部屋へと戻ろうと踵を返し、ゆっくりと引き返していた。
しかしその時、彼女は唐突に後方から不意にその腕をがっしりと掴まれたのだ。
「?!!きゃっ……!」
声を上げようとしたが、すぐにその手の主によって、隣の誰も宿泊していない部屋へと強引に引っ張り込まれていた。
そして、その部屋の板の壁に押し付けられると、暗闇の中で突然アイシャは唇を塞がれたのだ。顎や、頬に擦り当たる髭の感触も少し痛かった。その感触で犯人がすぐにわかるとアイシャはたちまち頭が真っ白になり、抵抗する力を緩めそのくちづけを受け入れていた。それは少し乱暴ともいえるキスだった。男の鼻孔から、熱い息が荒く洩れている。どうやらひどく興奮しているようだった。それを感じると、少女もだんだんと胸が熱くなるのを自覚していた。
そして数秒、少女の唇を貪り続けていた男が、彼女を押し付ける力を緩めた瞬間があったので、アイシャはそれを逃さず力を振り絞ってその男を押しのけた。
「はぁっ……やめて……!」
その声は、涙を含んだ声質で、少女の顔からは少しだが悔しさが滲んでいるように見えた。
「……じゃあどうして俺らの部屋の前に来たんだ?こんな、夜中に」
その男―ホークは少しだけ息を乱しながらも、鋭い指摘をした。その指摘にアイシャは言い返すことができず黙って項垂れてしまっていた。
「わかんない……わからないの……だけど、なぜか、無性に、ホークさんの、顔を見たくなって……。どうしてだろう……」
アイシャは最初、本当に眠ろうと懸命に目を閉じ意識を閉じようとしていた。だが、疲れて眠いはずなのに、目を閉じるとどうしてもタラール族の村でのショックな出来事が頭を擡げてきて、どうしようもない哀しい気分に襲われたのだった。
一体あたしを置いてみんながどこへ行くというのだろう?
タラール族がステップを離れることなど絶対にありえないことだった。
それがいない、という事は、もしかして……。
アイシャは最悪の事態を思わず連想すると、頭を軽く振った。
違うわ、みんな、グレイも、ホークも、早急に村を発たなければならなくなった事情ができた、そうとしか思えないと言ってたじゃない。
……では、一体どこへ?なぜあたしを置いて?
考えてみてもすぐに答えが出るはずもなく、堂々巡りであった。
自分を小さな頃から知っているおばさんやおじさん
自分になついてくれていた近所の子たち、友達―
その全てが、忽然と自分の前から姿を消す。
まるで、反対に自分の存在が、この世から否定されてしまったかのような絶望感。特に、いまや地上に二百人に満たない少数民族であるタラール族という独特の民族にあっては尚更だった。その恐怖と不安と絶望感たるや、まだ十六歳の世間知らずの少女にとって、それは想像を絶するものだった。大切な家族がいなくなったと知って、初めて解かる気持ちだった。
どんなに考えても、今は答えは見つからないことはわかっていた。考えるほどに不安になるばかりだし、今夜はこのことは忘れようと、別の事を考えようと、アイシャは思った。
楽しいことを考えよう―、この数ヶ月で起こった、信じられないような様々な事―。
クリスタルシティの事……、優しい国王様の、少し自分にとって衝撃的な話の事……、
ステップで、突然エスタミルまでさらわれてしまったこと……
ジャミルや、ファラや、ダウドに出会ったこと……
そしてやっと辿り着いたローザリアで足止めを喰らい、水晶亭ではマスターにとても親切にされたこと……
そして、あの男―ホークとの出逢い。
それを思うと、胸がじわり、と疼いた。
彼の顔を思い出すと、自然に昨夜の行為が次々と頭を支配し始める。実際に触られているかように、鮮明に体が思い出していた。何度も振り払おうとしたが、脳みそさえもはや、言うことを聞いてくれない。次々と、あの優しいキスや、全身への愛撫、そして、あの信じられないような快感と絶頂……。あの感触があっという間に身体を支配していた。
そして、気が付くと少女は、彼の眠っている部屋の前に立っていた。今すぐ、顔を見るだけでも……という一心だった。別に、抱いて欲しいと思ったわけでは決してないはずだった。
ただ、タラール族以外に自分の事を最も深く知っているのは彼だけ。そう思えた。傍に居たかった。それだけしか頭になかったのだ。
「わかんないの……あたし……」
アイシャは顔を手のひらで覆うような仕草をしながら、
「どうしてだか、わからない……。けど、一人で眠っていると、悲しい事ばかり頭をよぎってしまう……から」
涙を一度拭うと、「私、これからどうしたら……いいんだろう…………………」とひとりごとのように呟いていた。下を向いて、それ以上の言葉を失っていた。
ホークはもう一度、アイシャの肩を抱くと、その頬に手を添え、優しく少女を上を向かせた。そして再び、ゆっくりと彼女の唇を吸い上げた。それは、とても優しいキスだった。そのキスの心地よさに、少女はゆっくりと目を閉じた。そして、これがこの人の慰め方なんだ、と理解した。ひどくゆっくりで、唇を丁寧に吸い上げるような仕草にとても優しさが伝わってきたから。
アイシャはその優しさに答えようとするように彼の逞しい身体に手を回し、絡みつく彼の唇に、自分も恐る恐る吸い付いてみた。すると、ホークもまたそれに対して返答するように舌を滑らせ、彼女の口の中へと侵入したのだ。その感触は異質でありながら、感じたことのないゾクリとした快感を与えてくれる。アイシャは体をビクビクと震わせ、足もがくがくと戦慄き、力を失いそうになっている。
昨日も同じようなくちづけをしたのに、どうして今日はこんなに震えるんだろう?心も、体も。少女は、意識が飛んでしまいそうになるのを必死で耐えながら、彼の真似をするように自分からも舌を絡めようとする。しかし彼はまた、それ以上のことを仕掛けてくる、といった具合だった。
口から、あまりの心地よさに喘ぎさえ洩れる。そうしながら、長くキスをしていると少し息が詰まってお互いの口から溜まらず吐息が漏れ、絡み合う。それが暖かくて、身体に徐々に力が入らなくなっていた。ホークはその場でキスをしながら彼女の衣服をそっと脱がし始めた。一枚一枚、丁寧に。服を脱がされることに、アイシャはなぜか昨夜のような恥ずかしさや恐怖は全く感じなかった。むしろ、心も身体も軽くなっていくような心地良さが溢れてくる。彼のその丁寧な仕草に、喜びさえも感じていた。
立ったまま脱がされて服を全て足元の床へとすべて落とされ一糸まとわぬ姿になると、アイシャは流石に少しだけ恥かしくなり、彼の体にしがみ付いた。
「こんなの、恥かしいよ……」
心臓は鼓動を早め、一糸まとわぬ姿だというのに躰はどんどん熱を帯びていった。素肌の肩や胸元に、男の舌と唇が這いずり回る。それに反応して、はぁ……はぁ……と、静かに少女は快感を吐き出しているようだった。そして乳房へと舌を這わせると、いままでになく強く吸い付いてきたのだ。
「んっ……!」
アイシャは声を上げ、一瞬顔をしかめた。少しだけちくりとしたから。しかしその僅かな痛みも喜びとなって快感の引き金になっていくように感じた。少女は男の顔を見ようとその髪にそっと手をかけると、顔を上げたホークは一瞬だけ微笑うと、白い胸につけた自分の徴にもう一度軽くキスをし少女を軽々と抱え上げ、横抱きにした。そして言ったのだった。
「これからどうすれば、だと?」
アイシャはその行動と言葉にきょとんとした様子で、彼の顔をただ見つめていた。
「俺がいるじゃねぇか、バカ野郎」
男はそう言うと同時に、少女をベッドに降ろした。少しだけ―わずか数十センチだが―上の方から『落とした』ので、ドサッ!とベッドに跳ねるようにアイシャは転がる。
「お、落っことさないでよ」
アイシャは驚いて、思わず口を尖らせていた。
「お前があんまり莫迦な事言うからだろ」
言葉とは裏腹に、ホークは少し笑っていた。言いながらすぐにアイシャの躰の上に覆いかぶさるようにしてまたがり、ギュッと抱き締める。
「だって……………んむ……っ……」
反論を許さないかのように、ホークは軽く、何かを言いかけた彼女の唇を塞いだ。ちゅ、ちゅっ、と大きな音を立てて2.3度軽く唇を吸うと、顔を離し、
「約束しただろうが。俺を信用できねえか。……無理もねえか。今もこうして、否応無しにお前を脱がせて好きにしようとしてるしな」
アイシャは、それを聞くと俯いて、ゆっくり頭を横に振っていた。
「ゆうべあんな事されたんだもの……抵抗したって、もう仕方がないもん……」
彼女のまるで何もかも諦めているような答えに、ホークは顔を曇らせた。その答えは、あまり気に入るものではなかったからだ。彼は完全に動きを止めたことに気づくと、アイシャは困惑し、黙って男を不安な眼差しで見つめていた。
「……そうか」
ホークはひとりごとのように一言漏らすと、唐突にベッドから起き上がった。そして床に落ちていた彼女の服を拾うと、ベッドの上に置いた。
「……えっ?」
アイシャは驚いて、服を黙って見つめていた。
「抜け殻みたいな女、抱けるか」
そう言い残すと、ホークは部屋を出て行ってしまった。
残されたアイシャは、呆然と目をぱちくりとさせ、そして次の瞬間、なぜか勝手に溢れてくる涙を止めることができなかった。悔しいのか、悲しいのか、もう何がなんだかわからない。気が付くと声を上げて泣いていた。こんなに泣くなんて、一体いつぶりだろうか。
ホークはその声をドアの向こうで聞いていた。ただ黙って聞いていたのだった。
やがて、その声が収まった頃、そっと部屋に入るとアイシャは泣き疲れて、うとうとと眠っていた。
「……莫迦、服も着ねぇで」
ホークは苦笑して、シーツさえ被っていない少女の素肌に、服をそっと掛けた。
―本当は、その美しい肢体をもう少し眺めて居たかったが―しかしずいぶんと落ち込んだようだ。言い過ぎてしまったか、とホークは舌打ちする。そして、短く強めの溜息をひとつ吐いた。
なんせ、こんな少女をまともに相手にしたことはなかったから、どうにも勝手が解からなかったのだ。
「まだ望みは有るかもしれねえってのに、諦めちまう奴があるか。バカ野郎」
そう言いたかっただけだったのだが―『もう仕方が無い』、それはアイシャの今の気持ちの全てのようだった。それがひしひしとホークには感じられたからこそ、腹立たしかった。自分のようにどんな運命も諦めず自分で切り拓いてきた男にとって諦めとは即、死を意味する。たとえ体は生きていても、魂は死んでいると同じなのだ。自分の惚れた女に、そうはなって欲しくはなかった。
アイシャの肩に服をかけ終えると、ホークは、黙ってベッドに背を凭れ、床に座るとそのまま考えに耽っていた。彼女の姿を考えると一人で寝かせて部屋を出て行くわけにも行かない。もう少しして、起こそうかと考えていた。
すると唐突に、後ろで掠れた声がした。
「……私、全て諦めてしまっているわけじゃあ、ないんだよ……」
ホークは少し驚き振り向くと、アイシャが目をうっすらと開いて、こちらを見ていた。
「なんだ、起きていたか。全く、素っ裸で寝こけやがって」
「うとうとしてただけだから……、さっきの独り言も、聞こえた」
「ああ……」
しばし、沈黙が続く。ホークは、アイシャに背を向けてベッドに座ったまま、何かを考えているようにみえた。
「私、おじいちゃん達の事は決して諦めたりはしていないよ……。でも、ホークさんの事は……、ホークさんに、昨夜された事は……」
「もう、言うんじゃねえ。悪かったと思ってる」
「どうして?私のこと好きだから、だからあたしのこと、あんなふうにしたんじゃなかったの?」
「そうだが、お前はそうじゃねえだろ。なのに、物解かりのいいフリをするんじゃねえ。俺が嫌いなら、嫌いでかまわねえ。憎むなら憎め。それだけのことを……したんだしな」
「そんなこと」
アイシャは、どうして彼がそんな事を言うのか理解できなかった。手をついて上半身を起こすと肩にかかった服がずるりと下がって裸の胸があらわになったが、少女はお構いなしの様子だった。
「さっき、仕方ない、なんて言い方したの、気に入らなかったのならごめんなさい。私、最近悲しい事ばかりで……すごく泣きたくて……もうホークさんしか頼れる人がいなくて……、それで」
「俺にまた抱かれる覚悟でか。昨晩あそこまでやられたから、もうどうにでもなれ、か」
「違うっ」
アイシャは頭を横に振った。
「あの……私、上手く言えないけど……。でも、本当に、いやだったら、こんなところに来ないよ……」
そこまで言うと、我慢できなくなったのか、鼻をすすり始めた。言葉につまり、それ以上何も話せないでいる。
(まったく、よく泣く娘だ)
「確かに俺も言い過ぎた。すまなかったな」
ホークは溜息をつくと、少女の頬を伝う涙をそっと拭った。
「あんまり泣くと、顔が腫れちまうぞ。……ん?さあ、服を着ろ」
ホークは再び彼女の服を肩に掛けた。
「……抱かないの」
「当分一緒にいられるじゃねえか。別にがっつくことはねえ。こうなるとわかってりゃ、昨夜だって別にあんな……」
「え?」
「いや、何でもねえ」
何かを言いかけた、ホークは言葉を呑み込んだように見えた。アイシャは無言で、そっと肌着に腕を通す。肌を滑る衣擦れの音が、静かに雨音と絡まって、夜の部屋に響いた。腰紐をゆっくり結ぶと、
「いじわる……」
ぼそりと、独り言のように呟いていた。
「……言っただろうが、抜け殻みたいな女は抱けねえ」
アイシャはその言葉に答えることもなく、無言で服を纏った。絹の肌着の上から生成りの麻の衣を纏うと、ベッドを降りて、窓の外を見た。雨はさっきよりも激しさを増しており、大粒の雨が窓を叩いてパシャパシャと小気味いいとは言えない不快な音を響かせている。
「みんな、こんなに雨が降ってて、ちゃんと凌げているのかな……。降っていないところにいれば、いいんだけど……。雨なんて私達にとっては珍しいし、戸惑っていないかな」
口から自然と、どこにいるかわからない同胞たちを心配する独り言を漏らしていた。ステップでは雨なんてそう滅多にはに降らない。アイシャ自身も生まれてから、これほどの多量の雨を見たことがなかった。そんな雨を見ていると一層不安に駆られてしまう。窓に額をくっつけて、佇んでしまっていた。
「お前とはだいぶ事情は違うが―」
唐突にホークが背後から声を発した。
「突然、寄る辺を失うのは辛い……この俺も、だから代わる新たな―」
窓に、彼の姿が映った。そして、背後からそっと、アイシャの肩をたくましい腕が包み込んだ。アイシャは驚いてぴくりと震えたが、抱き締められていると、すぅっと気持ちが満たされていくのを感じていた。
「寄る辺を求める気持ちはあって当たり前のことだ。俺にとって、お前がそうだと感じたようにな」
そういえば彼の身の上を、出会った一昨日に聞いたのだっけ。長いあいだ海を共にした船が沈んで、仲間も大勢失い、元いた所にも戻れなくなったと。でもまさか、海賊だったなんて思いもよらなかった。だけどそんなことは、今はどうだってよかった。
アイシャは恥じていた。自分ばかりが辛いと思っていたことに。大した『抜け殻』だと、彼に言われるはずだった。
「……あたしが、あなたの『寄る辺』になれるのかな……。あたしなんて、ホークさんみたいな強い人の」
アイシャは、不安げに告げた。
「それを決めるのは、お前じゃなくて俺だ。―俺も弱えからな」
彼は鼻先で嘲笑うと、アイシャの赤い髪に軽くキスをした。
「そんなこと……」
そのまま二人は言葉を失い、窓を見ながらただ寄り添っていた。
―ホーク自身も、こんな嵐の様相を呈する闇夜は心中ぞっとしないでもないのだ。あの、自身の船・レイディラックが沈んだ時も、丁度こんな感じだったからだ。そうでなくとも、船乗りにとっては嵐の夜の漆黒の闇は仮令船上ではなくとも、良い気持ちのするものではなかった。
アイシャはしばし無言でホークの大きな体から発せられるぬくもりを確かめるかのように、目を閉じた。そして、しばらくしてぱちりと前を見据えるようにそれを見開く。
「あたし、強くなる。絶対にみんなを探なくちゃいけないものね」
アイシャは自分に言い聞かせるように発した。彼に元気をもらい、アイシャはだんだんと気持ちが前向きに変化していくのを感じていた。そうだ、こんなことであたしがしょげててどうするの。アイシャは、一度ホークの腕を取るとぎゅっと抱きしめた。そして振り返ると、
「ありがとう。あたし、元気が出てきた」
と、笑顔を覗かせていた。
「その意気だぜ」
ホークは、昨日初めて出逢った時と同じように生気に満ちた美しい笑顔を見ると、自分も心中で胸を撫で下ろしていた。しかしそれと同時に、そんな少女を見るとまた愛おしさも沸いてくる。
生気を取り戻しばら色に染まった少女の頬に、たまらず後ろから抱きしめながら唇を寄せた。
Last updated 2015/5/1