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Sweet Child O' Mine.
Romancing SaGa -Minstrel song.-

24. 新たな旅路へ

 それからアイシャはメシを早々と平らげると足早に図書館へと戻っていき、クローディアももう少し読みたいものがあると言い図書館へと戻っていった。閉館時間にはここで落ち合うことにし、俺は早めの酒を煽っていた。(と言ってもここは五時前にはビールしか出してくれないけちな店である。)ゆっくりしながらゲラに古文書の報告を聞く。どうやら古文書にはワロン島の神殿に入るための方法が書かれてあり、そのためにはアムトのシンボルとエリスのシンボルなる物が必要であるというとのことだ。

「神殿なあ……その中にはお宝が眠っているのか?」

「さぁそこまではよく書かれていないようです。ジャングルの奥には確かに神殿と言うかよく分からない尖ったような建物の先端を見かけたことがありますが、あれが神殿なのかもよくわかりません」

 俺の問いに、ゲラも曖昧な答えを余儀なくされる。

「ジャングルだから、海賊シルバーの宝と関連があるんだろうか?」

 そういえばと、以前ゲッコ族の長にもらったジャングルの地図を思い出し、広げてみる。その地図の真ん中には何やら三角の建物が描かれてあり、もしかしてこれなのだろうかと首を傾げた。

「それにしてもよお、いつ見てもざっくりした地図だなァこれ。まるで地図の体をなしてねえ」

 俺はクックッと含み笑いをしながらその、まるでただのガキの落描きだと言われても信じてしまうほどの『地図』を見つめる。

「それでも長が大事に持っていた物ですからねえ……私からはなんとも」

 ゲラは苦笑し、なんだか申し訳無さそうにしていた。

「ま、これでも無いよりマシなのかも知れねえけどよ」

「どうしますか、キャプテン。そのシンボルと言うものを手に入れますか」

 ゲラはわかりきったことを俺に尋ねてくる。

「今んとこは当面はっきりとした目的地もねえし、そのシンボルとやら、集めてみるか。しかし何処にあるのか書いてなかったのか?」

「それは書いてないようでしたね。しかしアムトと言えば、やはりあの場所……しか無いんじゃないでしょうか」

 『アムト』というと確かに聞き覚えがある。いや、ありすぎる。それは世界で唯一愛の神アムト神を祀る神殿のある場所。そしてそれは俺たちと赤毛が初めて遭遇した場所だ。奇遇にもそれはジャミ公もそうなのだが。

「北エスタミルか……」

 

 

 

 しばらくしてゲラが宿を取りに行くと言うので一旦席を外したので、俺は一人で呑んでいるとジャミ公が入れ違いのようにパブへと入ってきた。

「さすがに俺腹減っちまった……。メシ頼んでもいいかあ?」

 大袈裟に見えるほどよろめきながら、ジャミ公が俺の向かい側の席にどっかりと腰を下ろす。

「おお頼め頼め。しかしお前本なんて興味なさそうだったのに、どんな本読んでたんだ?」

 ジャミ公は目をゴシゴシとこすってから、ニヤリと微笑った。

「俺の夢さ。ディスティニーストーンについて、色々載ってたから調べてたってわけ」

「あの、千年前にサルーインを封じたなんて言うおとぎ話の宝石かあ?お前、あんなもの信じてんのか」 

 俺は半ば呆れたように言ってみる。

 ディスティニーストーンとミルザとサルーインの話はあまりにも有名だ。マルディアスに生きてて知らぬものなどいないだろう。だがあまりにも現実離れししていてそんなものが実在したのかすら疑わしい。もし実在したとしても、おいそれと手に入るものなのか、そして手にしていいものかどうかも甚だ疑問だ。なにせその石は、サルーインを封印するために邪神の魔力を吸い取らせているとも言われているのだから。しかし一方でその石の力によって今ある様々な国が発展を遂げてきたとも言われている。このバファルもその一つだ。

「おとぎ話かなあ、俺、絶対実在するって確信があるんだよね。でなきゃ、帝国図書館みたいな所にあれだけの関連本があるわけねえじゃん。それでな、絶対にあるって場所も載ってたから、何時か手に入れるためにメモっといた」

 

 そのひとつ、邪のオブシダンはバルハラントに。

 火のルビーはバイゼルハイムに。

 水のアクアマリンはクリスタルレイクに。

 気のムーンストーンは二つの月の神殿に、ということだった。

 

 その他は不明との事だったが

「そういや、風のオパールってのは、大昔に海賊シルバーがこのバファルから奪って、ワロン島のジャングルに隠してるらしいと聞いたな」

 俺がふと誰かに以前聞いた話を思い出してそのことを漏らすと、「マジ?!よっしゃそれもメモしとこ」と、いそいそと先ほどのメモに追加していた。

「それより、アイシャたちはどうした、まだ本読んでんのか」

 俺が訊くと、ジャミ公は頼んだ料理にがっつきながら「ああ、なんか滅茶苦茶一生懸命にあの小説読んでたよアイシャは。クローディアは色々な本をざっと読んでたみたいだけどな」と言う。「んでさあ、アイシャのやつ、読みながら途中で顔真っ赤にしたりボロ泣きしてたからさあ、びっくりしたよ!あいつなんであんなにすぐ泣くんだろ!面白いやつだよな!!」と愉快そうにわははと笑っていた。

「ああ、そうだな。あいつは涙もろいにも程がある」

 若い女の子特有のあれだ、感受性の強さみたいなところなのかも知れねえがな、と付け加えてやると、ジャミ公はなぜかニヤリと笑い、「だけどさ、俺ピーピー泣く女って嫌いだけど、アイシャだと嫌な気しないんだよな。なんでだろーなー」などと言い出す。俺はジャミ公がどんな意味合いを持ってそんなことをほざきやがったかわからなかったが、そう言われてふと思い出してみても、俺自身あいつが泣いていることでそれほどいい気持ちのする涙などなかった。

「そうか?俺は……あいつの泣く顔なんて、見たくもねぇな」

 それはジャミ公に向けてというよりも、まるでひとりごとのように口からこぼれた出た言葉だった。そしてこぼれ落ちた言葉を再び胸に戻すかのようにショットグラスに注がれた琥珀色の液体を飲み込む。ジャミ公は少しだけ意外そうな顔をして俺を一瞬見たが、そのまま何かを言うわけでもなくメシを口に運ぶのみだった。

 

 

 そうしているうちに図書館は七時には閉館となり、アイシャとクローディアは一緒にパブへと戻ってきたのだった。

「何か収獲はあったか?」

 俺は何気なく赤毛に問うと、ゆっくりと頭を左右に振って「……ううん。みんなの行方については、特には」と力なく答えた。見るとその目元は少し赤く腫れていて、泣いたのがまるわかりだ。さっきジャミ公が言っていた言葉を思い出した。余程その小説とやらは面白かったのか?とアイシャに尋ねたところ、何故か赤毛は顔を赤くして「う、うん……」と何故か歯切れの悪い返事をするのみだ。

「どうする、明日もまだ図書館で粘るか?」

 俺は全員に問いかけた。ジャミ公は「俺は知りたいことだいたい掴んだからもう用はないな」と言う。ゲラも「私も、次の目的地はだいたい分かりましたし、皆さんさえ良ければ」と言う。クローディアは「……私はどちらでもいいわ……」といつものように物静かに答える。そして肝心のアイシャはというと、「多分ここの図書館には知りたいこともうない気がするから、いいよ」と答えた。

「なら明日は、北エスタミルへ向かう準備だ」

 なぜ北エスタミルかということを説明すると、一同は了解してくれた。ただアイシャは「ああ、あの神殿……」と少しばかり苦笑いしていた。ジャミ公も「うーん、北かぁ……北もちーっとばかりヤバイんだけど、ま、いっか」とあっけらかんとしたものだ。

 

 北エスタミルへは、ベイル高原を大きく迂回しゴールドマイン、そしてブルエーレからヨービル、そして北エスタミルに行く算段となった。明日はまずゴールドマインへと向かうことに決まり、その日は宿へと戻ることとなった。

 

 

 そして翌日。

 俺たち一行は朝からメルビルを出ることにした。俺にとっては、実のところあまり居たくはない場所でもあり、用がないならと早々とこの王都を出ることにしたのだ。

 ゴールドマインってのは、バファルの金庫と呼ばれる皇帝直属の支配下の街であり、鉱山とそこで働く鉱夫たちの住む町で、厳重警備の施されている帝国の金庫がある以外はのんびりとした町とのことだったので、ローバーンよりもこちらを通る道を選んだのだった。何よりローバーン公ってのは、海軍の指揮を執る権限を持つ公爵らしい。そんな奴に招待がバレたらひどく厄介であることももちろんあった。

 ローバーンやゴールドマインまでは定期的に乗り合い馬車が出ているらしく、徒歩なら数日かかる所一日で着くというので、喜んでそいつに乗って行くことにした。

「便利だな、ドライランドとかローザリアもこういうの出せばいいのによ」

「そうですね、ローザリア領の中だけでもあれば、移動に苦労することなかったんでしょうが……」

 以前、徒歩での移動に苦労した記憶があるので、思わず口をついてそんな言葉が漏れた。ただ丸一日、この馬車に揺られて何も出来ないのはそれはそれでかえって退屈でもあったが、そこは贅沢なことを言うまい。ふと赤毛を見ると、彼女は二頭立ての馬を巧みに操る熟年の御者の真後ろに座って、ぼんやりと馬の様子を見ているようだった。乗馬が好きだったと言っていたから、一緒に消えた自分の馬のことでも思い出しているのだろうか。三時間程度ずつ馬の水飲み休憩が入るのだが、健気にも人間たちを運ぶために頑張っている馬たちの傍に近寄って御者に「おじさん、この子の名前なんていうの?」などと訪ねていたのが印象的だった。

 

 やがて辺りが夜闇に包まれるとともに、目の前には大きな風車の姿が現れた。それは鉱山の中にあるゴンドラなどを動かす動力源となる風車だということを後に聞かされることになる。

 俺たちはゴールドマインの町に到着したのだった。

 

「じゃあね、ジュディ!キャシー!ありがとう!」

 馬車から降りると、アイシャは馬たちにそう声をかけた。

「そりゃあ馬の名前か?」と俺が尋ねると

「うん。どっちも女の子なんだって!」とニコニコして赤毛は答える。その時返事をするように馬がひとつ嘶いた。クローディアもそんな馬たちを、見たこともないほど穏やかな笑みを浮かべて眺めている。

 そんな様子を見て、この二人、意外と似たとこあるのかもしれんな、などと思ったものだ。

 

 長いこと馬車に揺られて体がイタイの何のと騒ぐのはジャミ公だった。

「前も乗ったけどさあ、楽ちんなのはいいけど一日は辛えよなあ!」と首を回しながら文句を垂れる。

「うるせぇな、だったらてめえは次から一人で歩いて行け」と俺が言うとジャミ公は目を丸くして「冗談キツイぜ」と肩をすくめた。

「今日はここで一泊をして、明日はまた馬車です。ブルエーレまでは近いので今日ほど長く乗ることはないでしょう」

 

 

 相棒のその言葉の通り、俺たちは翌日にはこの町を発つと半日ほどでブルエーレに到着し、立て続けに船に乗ることになった。うまい具合に定期船が到着していて、そのまま北エスタミルへ直行することが出来たのだ。

 

 その船の中で、過ごしていたある日だ。

「なあ、北エスタミルまで行くんだったらさ、ついでに南にも寄って行ってもいいかな」

 メシを食っている時に、唐突にジャミ公がそんなことを言い出した。

「だけど南だともっと、色々マズイんじゃない?だってほとぼり冷ましのために旅しているんでしょ?」赤毛がそんな至極まっとうな疑問を口にすると、ジャミ公は

「まぁ、ひっそり目立たないようにしてりゃあいいだろ?今んとこ、別に表立ってお尋ね者ってわけでも無いしなー」

 などとあっけらかんと答えた。俺がファラに会いに行くのかいと尋ねると、

「まぁ、な。今回結構カネも入ったことだし、ちょっと分け前やろうと思ってさ」

 事も無げにそんなことを言うのだ。なんでも、今までも稼げば分け前をファラの親子にも分け与えていて、そうしないことにはまたあの親子が困ったことになるからだというのだ。

「ジャミル、エライね」

「別に……、前も言ったろ。ファラんとこには色々借りがあるから、それだけだよ」

 珍しく素直に赤毛に褒められたジャミ公は少し照れたような口ぶりで赤毛から目を逸らして吐き捨てる。そんなジャミ公を見て、少しだけ笑わずにはいられなかった。こいつの弱点はどう見たって、あのファラなのが可笑しくて仕方ねぇからだった。

 

 そうやって怒涛のように三日ほどをかけた旅の末、久しぶりに北エスタミルへと到着したのだった。

 

 

 以前にも立ち寄った街なので、すっかりと勝手は解っていた。アムト神殿に立ち寄るのに、アイシャのやつは嫌がるかなと思ったが意外とあっけらかんとしたもので「みんな一緒なら、大丈夫だよ」と言ってすんなりとついてきたのだった。

 アムト神殿へと足を踏み入れるとあいも変わらずそこは、神殿と言いながら少し妖しげな雰囲気を醸していた。アムトは愛の神であると同時に幻想をも司る。それにふさわしい幻惑的な設えが健在だ。以前入った時と変わらぬ、香の匂いで頭がクラクラしそうになる。ウハンジの奴の隠し部屋はまだ奥にあるんじゃねえのかとすら疑わせる雰囲気だった。

 神殿の中にはカップルと思しき男女が祈りを捧げたり、神殿の中に飾ってある置物のような物に二人で手をかざしたりしている姿が見て取れるが、ありゃあ何かご利益でもあんのか?と不思議に思った。アイシャもそんな神殿内の様子を初めて目の当たりにして、不思議そうに人々や、神殿内の調度品をきょときょとと眺めていた。

「少々尋ねたいことがあるのですが」

 ゲラが祭壇にいた年若い、金髪の女司祭に話しかける。以前いた女の司祭とは違うようだ。その女司祭はゲラの姿を見ると少し驚いていたが、

「あら……、ゲッコ族の方がここまで礼拝においでになるなんて。珍しいことですわ」

 言いながら、女司祭はやんわりとゲラに笑いかけ、浅くお辞儀をした。しかし

「いえ、残念ながら礼拝ではありません。我々は確かにアムト神を信仰していますが、今日は別の所用がありこちらに来ました」

 ゲラもこれまたやんわりと答えると、女司祭は少しだけ残念そうに顔を曇らせてから、「あら……そうなのですか。失礼しました。しかしならばなぜここに?」と問いかけてくる。

「ワロン島の神殿に入るのにアムトのシンボルとエリスのシンボルっていうのが必要なんだ。何か知らねえか?」

 俺が用件を尋ねると若き女司祭は

「ワロン島の神殿?それは伝説に言う『二つの月の神殿』に違いありません」と答えた。 やはりゲラの言うジャングルの建物のことなのか。

「アムトのシンボルとやらは、ここには置いていねえのか?」

 女司祭に更に尋ねると、彼女は俺たちをぐるりと一瞥してから

「あなたがたがアムトとエリスに祝福されているならば、その神殿に入ることも出来るでしょう。私からは、これを差し上げます」

 そう言い、彼女の胸にかかっていた赤いきらめく円盤の形をしたネックレスを外し、ゲラに差し出したのだった。

「これが、アムトのシンボル?きれい!」

 アイシャがそのきらきらと妖しく光るプレートを興味津々に覗きこんだ。

「そうです。これはこの世に二つとありませんから、くれぐれも大切になさってくださいね」

 女司祭はさらりとそんなことを告げた。

「そんな大切なもの、我々が頂いてしまっていいのですか?」

 ゲラも少し心配げに女司祭の顔を見ると、女司祭はにこりと笑い、「よいのです。私などが持つよりはるかに、あなた方のほうが役立ててもらえそうですから」とそんなことを言うのだ。一体何を持ってして彼女がそんなことを断言しているのかはわからなかったが、この若い女司祭の志をありがたく受けることにしたのだった。

「そうか、ありがとうよ。ところで、エリスのシンボルのことは、何か知ってるかい?」

 俺は、もう一つの月の女神のシンボルについても尋ねてみた。アムトとエリスは対の月の女神だ。何か知っているのではと思った。

「エリスは銀の月と獣たちの神ですが、人間にとっては謎の多い女神です。特定の神殿はありませんし、人に姿を見せることは無いと言われています。ただ、森の神シリルとは仲が良いそうですよ」

「そうか。それで、そのシリルの神殿はどこにあるんだ?」

「シリルにも神殿はありません。しかし、メルビルの南にある迷いの森がシリルのいらっしゃる場所だと言われています」

 迷いの森、と聞いて四人の視線が一斉にクローディアに注がれた。

「クローディアは迷いの森で育ったんだよね?神様の姿とかって見たことある?」

 アイシャがクローディアに尋ねてみたが、彼女はゆっくり顔を左右に振り、「……無いわ」と答えるのみ。

 このアムトのシンボルを持って迷いの森に行けば、もしかするとエリス神に会えるかもしれないと思いもしたが、急ぎのことでもなし、そのうち行こうということになった。

「色々とお世話になりました」

 礼儀正しくゲラが頭を下げ女司祭に礼を述べると

「あなた方に、アムト神のご加護がありますように……」

 と女司祭はそう述べてお辞儀をし、俺達を見送ってくれたのだった。

 

 そうしてアムトのシンボルを手に入れた俺達は、落ち着くこと無く南エスタミルへと向かうことにしたのだった。下水を通れば数十分で着いてしまう距離にジャミルの故郷があったのだ。

「うひゃー、ひっさし振りだな!」

 下水から地上へ上がり、自分の生まれた街に戻ったジャミ公は思わず高い声を上げた。そこへ、「ジャ、ジャミル!?いつ戻ったの?」と声をかけてくる男がいた。

「よっ、ダウド。元気してたか?」

Last updated 2015//8/21

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