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Sweet Child O' Mine.
Romancing SaGa -Minstrel song.-

11. Heaven Tells No Lies.

 ノースポイントの町。

 あれから二日かからずこの街にたどり着くことができた。たどり着いたのは二日目の昼前で、ワロン島への船が出るには少しだけ時間の余裕があった。

「とりあえず腹ごしらえだな」

 ここは比較的よく知った街なので、迷うこと無く一目散にパブへ向かう。

「おもしろーい!!なんだか階段みたいな街なんだね!!」

 赤毛は初めて訪れる港町に素直に歓喜していた。

 このノースポイントは北の末端の断崖絶壁に築かれた港町で、高台の入り口から比べてどんどん港のまでへの海抜が低くなっているという面白い作りの町だ。

 時折嵐などによる津波が港に来ても、高台に容易に避難できるという利点もある。

 何より世界中探してもこれ以上の場所はないほど、海の眺望には事欠かない隠れた観光名所である。

「すごいよ !海綺麗!!キラキラ光ってる!!!まるで星空が落っこちてきたみたいだあー」

 本日は快晴で風もほぼ無い。静かに凪いでいる海面には太陽の光が煌き、細かく波紋を刻むさざ波が確かに星屑のようにそれを乱反射させている。

 それを「星空が落っこちたみたい」だと表現するとは、なかなかおもしろいやつだと思った。ウソの村で見た星空が印象に残っているんだろうか。

 船はあと二時間ほどで次の便が出港だとパブの掲示板に出ているの確認し、わりかしのんびりと飯を楽しんでいた俺はあまりアイシャと目も合わせることもなく、黙々と飯に集中する。

「……なんだか、ホークさん、昨日から変」

 唐突に、赤毛が俺の顔をじっとり見つめてそんなことを言いはじめる。

「……あ?何が変だっつうんだ」

 俺は落ち着き払った声で赤毛の言葉を払いのける。

「だってさ、なんか変なんだもん。うまく言えないけど」

「言いがかりは止せ」

「そんなんじゃないもん」

 アイシャが言っているのは多分、俺のよそよそしい態度のことだとはわかっていた。ウソの村で自分の意志かどうかもわからないまま無断でアイシャを抱きしめて眠ってしまったことがどうにも俺の中で余計な葛藤を作っている。

 クリスタルシティでは確かに泣きじゃくる赤毛に請われてしぶしぶとそういう添い寝のようなこともしたのだが、今回は違う。

「別によ、俺は怒ってるとかそんなんじゃねえ」

 そう言いながら、自覚できるほど声は荒立ってしまった。

 俺のそんな声を聞いて赤毛は少し怯えたような顔をして下を向いてしまった。

 まただ。

 俺はなぜか、自分の最奥の部分に気づこうとすると時々苛立つことがある。

 これまではそんなことはなかったのだが、ことこの赤毛のことに関しては、自分すら見たところのない部分が見えてしまうようで正直な所恐れている。それを遮断するために怒りの感情を伴い外に吐き出してしまうように思う。

 多分こいつに非はないのにな。苛立ちをぶつけてしまい悪いことをしたなあとは思うのだが、どうしても自分の中で割り切れない。

「……港で待ってるからよ。食ったら早く来い」

 俺はこの空気に嫌気が差してきて、ゲラと赤毛を置いてさっさとパブを後にした。

 

「……ねえゲラちゃん、ホークさん、怒ってる、よね?」

 アイシャは思い切って、恐る恐る彼の相棒に尋ねてみた。だが

「言葉通り怒ってはいないと思います。少なくともアイシャさんに対しては」

 ゲラ=ハはそう普段の口調で答え、特に何事もなかったように食事を続けている。

「えっ、そうなの?本当なの?」

 アイシャは信じられないといったような顔をした。

「本当ですよ。ですから次にキャプテンに会ったらいつもと同じように明るく接するといいです」

「う、うん」

 彼の長年の相棒がそういうのだから間違いはないだろう、とアイシャは少しは安心したものの、どうして彼があんな態度だったのか、知りたくて仕方なかった。すると

「……ウソで泊まった晩、ちょっと変な人達がアイシャさんの隣に来ましてね」

「え?」

 唐突にゲラ=ハはアイシャに話し始めた。

「その人達が眠っているアイシャさんに変なことをしないかと思ったんですが、私が起きて注意する前に幸いキャプテンが気づいて、その人達を追い払ったんです。それでまた変な人が来ないよう、キャプテンはアイシャさんを自分の隣に移動させんですが。どうもそのことで少し後悔している様子でして」

「そうだったんだ、でもなんで?」

 アイシャは全く理解できていなかった。あたしのことを助けただけなのに、どうして後悔するのかと。

「それは……ちょっと。私の口からは……いつか、キャプテンから聞けるといいですね」

 ゲラ=ハは口ごもってしまった。アイシャはやはり理解できぬままだったが、ホークが、アイシャに対して怒っていないということだけは多分確かなようだと理解した。

 

 早々にご飯を切り上げて、アイシャとゲラ=ハは街の真北にある、港の船着場へ。

「おかしいなあ、どこだろ」

 ゲラ=ハはゴドンゴ行きの便三人分の乗船手続きをしていたが、肝心のホークの姿がない。

「港にいるって言ったのに」

 そこそこに人が行き来している船着場には、あの目立つ体躯の男は居ないようだった。

「アイシャさん。私はここで待っていますから、キャプテンを探してきていただけますか。きっとその辺にいると思いますので」

「う、うんっ!わかった!」

 アイシャは言われるままに港の周辺をあの大きな体躯を目印に目を凝らし続けた。

 居れば絶対に目立つはずなのに。どうしていないの。

 アイシャの脳裏にふと、悪夢がよみがえる。

 みんな自分の前からいなくなってしまう。

 父も母も、村の人達も、そしてホークさんたちまで。

 アイシャの大きな瞳から、自然とボロボロと涙が溢れだした。

 まるで親とはぐれ小さな子供のようだった。もう一人の冷静な自分がそう呆れ顔をする。

 探しまわっているうちにとうとう船着場から出てしまった。港って船着場のことじゃないのと思ったのだが、ふと気づいた。船着場の横に見晴らしがよく船も良く見える崖がある。

 念のためそちらをキョロキョロと探してみると、

 ――居た。

 海を悠然と見つめる、大きな碧(みどり)色の背中がそこには在った。

「ここだったんだ」

 独りでに口から出た少女の言葉に、ホークが反応し半分だけ振り向いた。

「おう」

 アイシャはどう声をかけたらいいか少しだけ惑いながらも

「あの、ゲラちゃんが船に乗る手続きをしたから船着場で待ってるって」

「そうか」

 ホークは言葉少なに返事をすると踵を返した。

 どんどんこちらに近づいてくるホークにどう反応していいか何故かわからなくなったアイシャだったが、先ほどのゲラ=ハの言葉を思い出した。

『何時もと同じように明るく接するといいです』

 何時もってどんなんだっけ……。考えて行動してないからよくわかんない。

 するとホークは目の前まで来ていたことに気付き、自分が必要以上に面持ちが緊張していることに気づいてしまった。こんな顔してたらまた彼の機嫌を損ねてしまうのだろうか、と更に焦っていると、

「さっきは、済まなかったな」

 すれ違いざまにホークはそう言い、ぽんと赤毛の頭を撫で付けた。

 アイシャはそれだけでもうなんだか嬉しくて「ううんっ!」と元気に発すると、ホークの後ろを跳ねるようについて行っていた。

 

 

 アイシャに乱暴な態度を取ってしまった後、ホークはまっすぐこの場に辿り着き頭を冷やすことにした。

 全くよう、さしものサンゴ海のキャプテン・ホークも形無しだぜ、などと自嘲するものの、そんな事したって何の役にも立たないこともまた理解しているはずだった。しかしそうせずにはいれらないほどに、ガタガタに崩壊しつつある、己の定めた境界線。

 

 昔から、海を眺めていると少しだけ自分の心に素直になれるように思える。

 わかっているんだ。今の自分がどんな状態であるかぐらいは。しかしそれを認めて向き合うことが恐ろしいのだ。てめえの事だけならなんとでも出来るだろう。だが、この件には俺だけじゃなく、あいつにどんな影響を及ぼしてしまうのかという一番の問題があった。それが一番恐ろしいのだ。

 出会うべきじゃなかったかも知れない。今からもう一度南エスタミルに戻り、奴隷商人共をぶちのめしたい気分に俺はなっていた。

 神様っていうのはよ、まあエロールだかウコムだか、はたまたアムトだかなんだか知らねえが、さんざ海賊稼業で暴れまわった俺に対してとんでもねえ天罰を与えやがるもんだ。

 すると背後から、赤毛の声が聞こえた。

「ここだったんだ」

 俺はこその声が響くと心臓がぎくりと鳴った。しかしすぐには振り返ることが出来ない。今は赤毛の顔を見るのがどこか怖かった。

「おう」

「あの、ゲラちゃんが船に乗る手続きをしたから船着場で待ってるって」

 少しだけ遠慮がちな赤毛の声だった。俺があんな態度でさっさと出てしまったものだから、勘違いしていやがるのだろうな。

「そうか」

 そう簡単な返事を返すのが精一杯だった。仕方がないので踵を返し、赤毛の側に歩み寄る。

 近づいてみると、明らかに赤毛が少し前まで泣いていたのがすぐにわかった。涙はもう出ていなくても、少しだけ涙の跡が残っていた。何より、目が少し赤い。

 それは自分のせいなのかはたまた別の要因のせいなのかは判別はできなかったが、赤毛のそういう顔を見るといつも心臓をギュッと掴まれたような気持ちになってしまうのだ。

 こんな顔が見たいわけじゃない。

 こんな顔にしたいわけじゃ決して無い。

 そんな思いが強く心に浮かび、その波に押されるように言葉が素直に口から出た。

「さっきは、済まなかったな」

 言いながら、手は自然に赤毛のてっぺんに触れる。

 すると背後で「ううんっ!」というひときわ弾む声がした。聞こえる足音も軽やかである。

 これこれ、これなんだ。

 やっぱりガキは元気なのが一番だ。

 

 

 俺たちが船着場に着くと、ゲラの野郎が切符を俺たちに手渡しながら

「仲直りはできましたか」なんて聞くもんだから

「別に喧嘩なんてしちゃいねえ」と返しておいた。

 しかしこいつも、俺が赤毛のことで苛立つと板挟みのようになってそれはそれでストレスかも知れねえなあと、そちらに対しても少しだけ申し訳なく思ったりもした。

 

 そして、いざ出航。

 ゴドンゴへは三日ばかりかかる予定だ。

 赤毛は広い海で船に乗ることが初めてなので、思いの外はしゃいでいた。

 どこまでも広がる海を見て圧倒されてみたり、船の大きさにもかなり驚いていて、こんな大きな船に沢山の人を乗せていてよく沈まないよね!などと素朴な疑問を口にしたりしていた。

 

 俺は甲板に出て穏やかな海を見つめながら、ぼんやりとただただ取り留めのないことを考えていた。

 俺はずっとこの海の上を漂う人生だと思っていたんだがなあ、と。

 生まれた時から俺はこの海の上だった。だから死ぬ時までずっと海の上だと。その人生観の中には特に深い意味も信念もなかった。『仕事』に対する信念はありはしても、生き死にそのものは運命に逆らわず、ただ揺蕩う波間の中にその身を委ねていたのみだったのだ。

 その時、背後から声がした。

 

「ねぇ、ホークさんはどうして海賊になろうと思ったの?」

 

 まるで俺の脳内でも盗み見たのかと思うほどのタイミングで赤毛はその質問を投げかけてきたことに、俺は内心ギクリとしていた。

 俺が驚いて振り向くと、アイシャはいつもの無垢で無邪気な貌を俺に向け続ける。波の光の反射を受けてか、大粒のペリドットのような瞳は一際キラキラ輝いて俺に鋭い破片を投げかけてくるようだった。

 考え事をしていたのにと言うと、赤毛は一瞬落ち込んだものの、俺の生い立ちのことを少しだけ話してやるとまた瞳を輝かせて俺の話しに食い入るように聞き入っていた。いつもは袖のある左腕なのに、今日は何故か裸身の右腕にくっついてくる。態度には出さないものの、ウソの夜での感触が蘇り内心少し動揺した。こうやってくっついてこられると「くっつくんじゃねえ」とけん制する他やりようがない。だが本人はちっとも気にしていない様子だ。

 天涯孤独であることを告げるとこれまた少し申し訳無さそうな顔をするのだが、考えてみればお前だって今はそんなような身の上じゃないのか。

 しかも何故そんなに俺のことなんぞ聞くんだと尋ねると、赤毛は屈託ない瞳を見開いて、俺のことが好きだからと言いやがる。

 そんなことは知ってる、と返したくなる衝動があったがなんとか喉元に収めるのに精一杯だ。これ以上口を開くと何か余計なことを言ってしまいそうだった。そんな何も言わない俺に対してアイシャは不安になったのか、いじわると言って俺に再びしがみついた。

 

 

 ―全く意地悪だな。神様ってのはよ。

 

 

 

 

 

 

 そうして出航より約三日後、俺たちはゴドンゴへと到着した。

 時刻は昼過ぎだったため、そのまま休むこと無くウエイプへと向かうことにしたのだが、アイシャはこの町の浜の美しさにすっかり魅了されているようだった。

「こんなきれいなトコがあったなんて、すごい!すごーーーい!!!」

 はずむ声でそう叫んだかと思うと、寄せては返す波に興味津々といった具合だった。最初こそおそるおそる波打ち際に近づいたが、気がつけば波に夢中である。

「すごい!海の水がザバーッて来たり向こうに行ったりしてる!」

 俺はそんな赤毛の言葉を聞いて、呆れるやらおかしいやらで笑いを堪えるのに精一杯となってしまった。まさか海岸の波を知らないなんてことは、逆に俺からすると思いもよらないことだったからだ。

「それはな、『波』っつうんだ、覚えといて損はないぞ」

 笑うのをこらえながら、俺は赤毛に教えてやった。すると

「これ、ナミって言うんだ!へえー!すごいね!」

 心から感心したような声を上げ、寄せる波に手を突っ込んではアイシャはキャッキャと声を上げながら一人で興奮していた。

「この島で生まれ育った我々にとっては当たり前すぎてわかりませんでしたが、海はアイシャさんにとってもとても感動的なものみたいですね」

 ゲラの奴も無邪気にはしゃいでいる赤毛を微笑ましげに目を細めて眺めている。

「まぁな。俺なんて、初めて波を見たのは赤ん坊の頃だからな。それからほとんど波の上だから当たり前すぎて笑っちまう。ある意味あいつが羨ましいぜ」

 船の上でのはしゃぎようもかなりのものだと思ったが、まさか砂浜や波を見ただけでこんなはしゃぐなんて思いもよらなかった。生まれて初めて海や砂浜を見たからと言ってもだ。確かにこの島はリゾート地としてもそこそこ人気のようで、美しい砂浜として有名なのだが、俺やゲラなどはあまりにも見慣れていて当たり前の光景だった。

 このまま波と戯れる赤毛を眺めるのも悪くはねえが、さっさと目的地へ行きたいと思った俺は赤毛に声をかけた。

「おいアイシャ、あっちの浜も綺麗だから、そろそろここを出ようぜ」

「ほんとに!?」

 その時、ゲラが低い声で俺に進言してきた。

「……キャプテン、ウエイプは崖側の町なので、こちらのように砂浜には行けませんよ?」

「あ?……そうだったか?」

「えーっ、向こうは砂浜に行けないの?」

 俺は嘘を言ったわけじゃなく、本当にそのことを失念していたのだが、なんだかアイシャの残念そうな顔が俺を責めているようにも見えた。しかし

「……あっ、でも、いいよ。早くメルビルに行かないといけないよね」

 赤毛はすぐに自分たちの目的を思い出したようで、ホッとしてしまった。

「そうだ。じゃあ、行くぜ」

 赤毛も納得したようだと思い町の出口に向かおうとした。その時だ。

「お?お前はゲラ=ハではないきゃ?しばらくぶりだな。元気にしているのきゃ?」

 一人のゲッコ族がゲラに話しかけてきた。

「ああ、あなたは。あなたこそ傷は癒えましたか?」

 ゲラも親しげな態度でそのゲッコ族と話しをしている。

 (おい、誰だよ)

 俺はゲラだけは長年相棒として組んでいるため彼だけはなんとかわかるのだが、他のゲッコ族はてんで見分けがつかない。先だってと言うと、ゲッコ族の村で見かけたやつだろうか。

「先日私達が助けた同胞の一人ですよ。人間を嫌っている部類の一人だと思っていましたが、こんなところで見かけるなんて珍しいです」

「私もお前や積極的に人間ときゃきゃわっている同胞たちを見ていて、このまま洞窟に引きこもっていてはいけないと、ここへ出てきたのだよ。こないだのように悪い人間もいるぎゃ、ここにいる人たちは概ねいい人ばかりでたすきゃっている。お前は相変わらずきゃいぞくをしているのきゃ?」

 「ああ、この前は言いそびれてしまいましたが、訳があり今のところ海賊稼業は休業中です」

 なんだかんだと世話話のようなものが始まってしまった。まぁ、ゲラにしちゃここが故郷なのだし、仕方が無いのかもしれねえが。そう思い俺は特にとがめたりすることをしなかった。

「おや?そこにいる人間の娘さんは、もしきゃしてタラール族という者ではないのきゃ?」

 突然自分の一族の名前を挙げられて、アイシャは驚いていた。

「よく知ってますね!私、タラール族のアイシャです!」

 赤毛は元気よく挨拶する。

「君、よく知っていましたね」

 ゲラの奴も少し驚いているようだった。

「あれきゃら私は人間について興味がわき、色々と人類のことを勉強したのだよ。そんな時たまたま見つけた古代人類学の本ぎゃあって、タラール族という地上で最も古くきゃらある人類の歴史のことぎゃきゃいてあったのだ。そこにえぎゃきゃれている特徴ぎゃそのお嬢さんの見た目ソックリだったので、もしきゃしたらと思ったのだよ。しきゃしなぜこんな所に?」

 古代人類学か……。考えてみりゃあ俺は、タラール族というのはアイシャ以外は知らないし、どんな一族かなんてよく考えたこともなかった。

「色々と訳があり、このアイシャさんの親族の行方を探しておりまして」

 ゲラが簡潔に事情を説明すると、そのゲッコ族の男はうーむとしばし考え込んでいた様子だった。

「そうきゃ……私の読んだ本のきゃぎりでは、古くきゃらガレサステップに根ざす民であるという事以ぎゃいはきゃきゃれていなきゃったので、それ以外の場所に消えるなんてことはきゃんぎゃえられないということしきゃ言うことはできないな」

「そうですか……」

「ただ、きゃれらは大昔の神々のたたきゃいのあと、人類が滅んだはずの地上に突如たくさんの人間をひきいてドライランドに一大王朝を築こうとしたと言われているのだ。そこに何きゃヒントがあるきゃもしれんな」

「へぇ、知らなかった、その話……」

 アイシャはゲッコ族の話を聞き、興味津々となっていた。

「当のタラール族のお前が知らなかったのかよ。しかもお前、族長の孫だろ」

「でもそういうの、教えてもらわなかったもんっ」

 少しだけ憮然とする赤毛。

「ありがとうございます。少しだけですかが、ヒントを得た気がします」

 ゲラはゲッコ族の同胞と握手をし、別れを告げていた。

 

「お時間取らせてすみません」

 ゲラは仲間と世話話をしたことを謝っていたが

「ううん、勉強になったよ。……私古い話とか何にも知らなくて、恥ずかしいな……」

 アイシャは自分の一族の歴史を部外者から知らされたことに恥じている様子だった。

「メルビルに行ったらその本読めるかなあ」

「あそこにない本はないと言われていますから、あるんじゃないでしょうか。なければ私が彼に借りてきますよ」

「ほんと?やったー!」

 ゲッコ族の青年から思わぬヒントを得て、アイシャは俄然メルビルに急ぐ気になってくれたようだ。

 

 それにしてもゲッコ族ってのは、案外勉強熱心な奴が多いのだなあと感心してしまう。そんな中でも一切訛り無く話すことのできる俺の相棒は、どれだけ勉強家なんだろうかと内心少し驚き、感心してしまっていたのだった。

 

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Last updated 2015/6/3

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