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碧い月の下で…。
FINAL FANTASY Ⅸ

12. 御神輿船のお告げ

 そして、やがて艇は、コンデヤ・パタの手前に着陸した。

 三人は大地に降り立つと村の手前まで歩いた。根は完全に引っ込み、村は静かに平静に戻っているように見えた。

「エーコ、いいかい?」

 ジタンが、確認すると、エーコは、うんうんと、首を縦に振った。

「じゃあ、入るよ」

 三人が懐かしい丸太の橋を渡るとすぐに、石のレンガでできた独特の建築様式の門が現れ、入り口にはあのずんぐりむっくりとしたコンデヤ・パタの村人の姿がある。

 ジタンもダガーも、そしてエーコだって勿論、あの樹の根に包まれていたあととは思えない、変わらない村の風景を見て「無事でよかった」という安堵が脳裏を横切る。

 そして、まずジタンが先頭を切り、村の入り口に入ろうとした。すると

「ラリホッ!旅のひと。アレレ、アンタむかしにこの村にきなすったね」

 入り口に居た村人が、ジタンの顔をまじまじと見つめていた。がっしりとした身体で、門を守るようにさえぎっている。

「あ、ああ、そうだな。久しぶりにこの村に来たぜ」

 ジタンは、覚えていてくれてるとは思っていなかったので、すこし驚いていた。何気ない顔で通ろうとしたが、村人はまだ道をたちふさいでくる。

「何だよ?」

ジタンは村人の顔を見た。しかし、村人は黙っていた。しばらくよく解らず、ジタンはまるでメンチをきるように、顔をしかめたり、または作り笑いをしたりして、村人も少し、顔を緩ませたのを見てまた門をくぐろうとしたが、やはり

「ラリホッ!」

 と村人は、執拗に、「ラリホッ」とだけ、言い続け門を守っていた。

「ら、ラリホ……」

 ああ、そうだ。ようやく思い出した。この村はこのヘンなあいさつをしない限り中には通してもらえないんだっけ。すっかり忘れていたジタンは、頭をポリポリと掻きながら、少しおっくうそうに、挨拶をした。

「ら、ラリホッ」

「らりほ……」

 後ろにいるふたりも言葉を続ける。エーコは声が小さかったが、聴こえたかと心配もしたが、すんなりと入ることができたのだった。

「ふう、エーコの事、気づいていないようね。良かったー」

「良かったじゃねぇよ、エーコ。謝るんだろ??」

「あ、そうだった」

 エーコは苦笑いをして、舌をかるく出す仕草をした。

 三人は右手の通路を抜け、村のあちこちを見回していた。

「思ったよりは、根のダメージは受けていないようね。海上に支えられている造りだったから、きっと入り口だけなのね、根が侵食して入ったのは」

 ダガーはほっとしたように、独り言のようにこうもらしていた。

「おんや、これは、記念すべき100人目の新婚さんでねえか。なつかしいド!元気で夫婦円満にやってるだドか?」

 そう話しかけてきたのは、御神輿舟の神主だった。ふたりがかりそめの結婚式を挙げたときに、立ち会った神主である。

「おんやー、こいつはたまげた。もうこんなおおきなやや子さこしらえて!いんや、少し大きすぎるド??」神主が言っているのはどうやら、エーコのことのようだった。

「まさか、このエーコはさ、その、妹、そう、妹さ。まだ2年しか経ってないのに、こんなに大きいワケがねえだろ、神主さん」

 ジタンは笑いながら、うまく取り付くろっていた。

「けんど、この子もどっかで見たことが……」

 神主が、エーコの顔をまじまじと見つめていたその時、

「ああ、この子はホレ、ちいさいのと一緒によく村の食い物さコソ泥しとったちっこい子だド。随分見ねかったからもしかして食い物が手にへえらねえで飢え死にしてねーかって、よう話しとったドが、元気でよかったなぁ」

 おそらく道具屋のおかみさんらしきその村人はエーコの事をちゃんと覚えており、こんな意外な言葉をくれたのだった。

「お、怒っていないの?あの、あの時は本当にごめんなさいっ!」

 エーコは、おそるおそる尋ね、ぺこりと頭を下げた。

「そんなあ古い話だド。気にするでねぇド。それより、あのちっこくて白いのはどうしたド?」

 おかみさんは、よりにもよってクポの事を尋ねてきた。エーコはしばし言葉につまったようだったが、「クポは……死んじゃったの」と、正直に言った。それを聞くや否やそのおかみさんは、

「そうだったド!かわいそうに、かわいそうになァ!」

 と、涙を流しながら、エーコの肩を掴んだ。

「おばちゃんが、エエもんやるから、ちょっとコッチおいで!かわいそうに!」

「え、あのちょっと!?」

 おかみさんはエーコの意思などかまわずに、自分の店へと引きずっていく。

「え、エーコ!?あの……」

 ダガーは唖然としながらも、エーコを追いかけようとした。だが

「心配せんでもエエド。おかみさんはエエひとだから」

 神主はまるで、いつもの事のように平然としていた。そしてジタンも

「リンドブルムの下町にもよくいるぜ、あんなオバサン」

 と、笑っていた。

「はあ……」

 ダガーは、ただ驚いていた。

「それより……あんたら、その後どうだ?めんこい赤ん坊でもこさえてねえのか。聖地に行っためおとはみんな、やや子に恵まれるんだドが……」

「はあ……あの、その、まだですねぇ……」

 ジタンは、まさかウソの結婚式だったなんて言い出すことができず、そんな適当な生返事しか返すことができなかった。後ろではダガーも言葉にならずただうつむいていた。顔は多分、赤くなっていたに違いない。

「それはおかしいド……そんな事は今までにありえない事態。何か問題があるに違いねえド。ちっと待っとるんだド!御神輿さまにお伺いを立てるからして!」

血相を変え、神主は急いで御神輿舟の元へと早足で去っていった。

「おお、おいおいちょっと!?……まいったなぁ、ダガー」

 もしかしてエーコの盗みより、こっちのほうが村人には大罪なのかも知れないなとジタンは少しこの村に来たことを後悔し始めていた。ジタンは肩をすくめ、何気なくダガーに話しかける。彼女はうつむいていたが、何か考え事でもしているように黙って、ジタンの声にも気が付いていないようだった。

「ダガー、どうしたんだ?」

 二度目のジタンの少し大きな声に、やっとダガーは気が付いて、ハッと顔を上げた。

「え?何かしら、ジタン?」

「どうもこうも……神主さん、オミコシサマのお告げを聞きに行っちまったよ。何か、やばいかな?」

「さぁ……」

 ダガーは、まるで生返事のようだった。

「……どうしたんだよ?ダガー、なんかヘンだな!?」

 ジタンは首をひねっていた。それでも、彼女は何かを考えているようだった。なので、ジタンはあきらめ、「なあ、いっそのこと、御神輿舟ってやつのところに行って見ようか」と、申し出た。

「エーコはいいのかしら?おかみさんに連れて行かれたままだけど」

「大丈夫、大丈夫。別に取って食われたりしねえだろ」

 そう言って笑うと、ジタンはダガーに手を差し伸べた。

 ふたりは石の建物が並ぶ村をゆっくりと歩きながら、なつかしい佇まいを眺めながらアーケイドのような石の天井の通路を抜け、大きな船のある、広場に辿り着いた。

 その巨大な箱舟のてっぺんで、さっきの神官が祈りを捧げていた。

「一体何を聞いているんだろうなあ」

 ジタンは少し苦笑いをしていた。そしてちらりとダガーを見ると、船をまるで放心状態でほうけた面持ちで見つめていた。

「ダガー、さっきからボーッとちゃってどうしたんだ?」

 ジタンが控えめに声をかける。

 しばらくしてから、ダガーはこう言った。

「わたくしたち、確かにここで、結婚式を挙げたのね……。とても懐かしくて」

「そうだったなあ。でも偽の結婚式でしたなんて今更言えないしな」

 ジタンは苦笑して、大きく神々しいその船を見上げていた。

「でも、改めて思うけどなんで船なんだろうなぁ。……テラの召喚獣アークと意味が似ているのかもな。マダイン・サリに近いからもしかするとこいつは……」

 ジタンはなにげなく思いついたそんな思案を巡らせていた。

「……ジタンの、ばか。他に何か思うことは無いの?」

 ダガーが独り言のように呟いた些細な不満にも、気づくことは無く。

 全くジタンは女性に優しいかと思うと、肝心なところで鈍感なのだった。

 その時だった。

「出ましたド!!」

 船の上で祈りを捧げていた神官が何やら叫んでいた。

「ど、どうしたんだ?」

 ジタンはやや驚き、恐る恐る神官に尋ねた。

 

 

「出ましたド!!こんなハズはねえと思うとったんだドが……、ずばり言うド!」

「あ、はいはいはい!!」

「ズバリ……」

 ジタンとダガーの二人は思わず神官の言葉に固唾を飲む。

「これは、二人がまだ本当の夫婦になっていないというお告げがくだされただド。もう二年も経つというのにおかしな話だドが……」

 神官はまるで苦虫を噛み潰したような表情をし、二人をしげしげと見つめていた。あの大きなあごを突き出し、二人をなめるように足から頭まで見つめていた。

「ほ、本当の夫婦って一体何だってんだ?」

 ジタンは興味本位で、咄嗟にそんなことを聞き返した。

「それはもちろん、子作りにいそしんでないって事だド。この村ではなにより大事な仕事だド。でなけりゃ夫婦さなる意味なんてねぇド?子孫さのこさねぇと、この星はいつか滅んでしまうなんて事は考えなくてもわかる事だ。なんでおめえさん達はやや子さこさえネェ?」

「う、いやぁ……それは、その」

 ジタンは頭をボソボソと掻きながら、(少し鼻の下も伸ばしつつ)答えに窮していたが、

「なんだ、そのう、色々頑張ったけどできないもんは仕方ないって言うか……ほら。できないときゃできないし、できるときはできるんじゃねぇの?」

 と、すこぶる適当極まりないあいまいな事を言い放っていた。

「それはありえねぇド……御神輿さまのご加護は百発百中で、この村にはやや子に恵まれなかった夫婦は居ネェ。……もしかしてよそ者に儀式を受けさせたのがマズかったか……或いは……」

 神官はウロウロと、手を組みその場を右往左往しつつ思案していたが、ジタン達の前で立ち止まると、

「この村の中でネェと効き目がネェのか?」

 彼はそのギョロリとした眼をジタン達に向けると、一度天を仰ぐと、何かを思いついたか如く、左手の平に、右手をポンと打ちつけた。

「そうだド、そうするがええド!なんせよそ者が式を挙げたの初めての事で、何かと御神輿様のご加護もおぼつかなかったにちげえねぇド!ほれオメェさん方、今夜はこの村に泊まっていったらエエド。そしたら多分ヤヤ子に恵まれるのにまちげえねぇだ!」

 神官の言葉にジタンは驚いていた。が、それ以上に、ダガーは困惑し、何も言葉を出せずに下を向いていた。

「その、けど、ここに泊まる予定なんてないし、なぁ、ダ、ダガー?」

 ジタンは、まるで助けを求めるように、後ろで沈黙している『妻』のダガーに同意を求めようとしていた。突然意見を求められたダガーだったが、最初は

「え、ええ。……その、わたしたち、すぐにここを発つつもりなので……」としどろもどろで答えていたが、何故だか

「なあ?すぐに発たなければいけないんだ……神官さんの言葉は……」

 ジタンはその場を逃れようとしたが、どういうわけだか

「けど……スケジュールなら、なんとかなるわ。ここに一晩泊まるくらい……なら」

 などと、ダガーは言い出したのだ。ジタンは耳を疑ったが、神官は大喜びをし、ダガーの元へと歩み寄ると

「そうするがええド!おくさんに御神輿様のご加護を!」

 と言うや否や、神官は早足に宿の方へと歩いていったので二人になったが、ダガーはそれ以上何も言うこともなく、ジタンもあえて何かを聞くことなどできずにいたのだった。

 すると向こうの方で、エーコの声が聞こえた。

「ね、ここに今夜泊まるって本当!!?さっき神官ってヒトが言ってたんだけど」

 と、エーコは信じられないといった顔で、ジタンたちを問いただす。

「ご、ごめんよ、エーコに聞かないでさ……はやくマダイン・サリに行きたいんだったらやっぱり行ってもいいんだけど?」

 ジタンはチラリとダガーを見つつ、エーコにこんなことを言っていたが、予想に反しエーコは、「ううん、いいの!」と笑顔で、こう返す。

「へ??」

 ジタンは拍子抜けし、間抜けな声を出してしまった。

「あの、おばさんがね、すごく今夜泊まっていけっていうからさぁ……泊まって行ってあげようかなぁって……」

 エーコは苦笑いを浮かべ、照れくさそうに、こう言った。

「ま、今度はいつ来れるか分からないし、良いかなあって。だから二人も遠慮なんかしないでよ」

 そう言うと、エーコはまた道具屋の方へとてくてくと駆けていった。

 ダガーとジタンは追いかける事も忘れ、しばし呆然としていたが

「何かアイツ、気を遣っているのかなあ……」

 と、ジタンは苦笑していた。

 あんな小さな子に気を遣わせるなんて、と気の毒に思っていたが、何より気になっていたのはダガーの謎な態度であった。

 まさか、昨夜の続き……なんて、ジタンは考えると意味なく頬を緩ませる。

「どうしたのジタン?なんだか笑っているみたいだけど……」

 ダガーはおもむろにジタンの顔を覗き込むと、無邪気に首をかしげていた。

「いやっ……なんだ、なんでも、ないんだよ」

 ジタンは慌てて取り繕ったのだったが、その後ダガーが少しだけ下を向いて笑っていたことなど気づきもしなかった。

 

 やがて陽も落ちようとしていた。

 エーコとジタンはプリンセス・エーコ号に戻るとこの村で一晩泊まる事を告げると村に引き返し、エーコは道具屋のオバサンのところへと向かい、ジタンとダガーは神主の言われるがままに一度お神輿舟で祝詞を挙げてもらったあと、この村の宿へと行くことになったのだった。

「ではゆっくりとオヤスミナサイだド。お神輿さまのご加護のあらんことを」

そう言うと、その宿の中でもたった一つしかないという特別な部屋に案内をされた。「この部屋は、何年か前最後にこの村に赤ん坊が生まれた部屋だド。この村のもんでもこの部屋の力を借りたいという若夫婦はたまにいるだドな。ホレ、この村も今はかなーりの少子化でこまっとるでな……。旅の人でこの部屋に入れたのは、アンタたちだけだド。まあ神主さまに感謝をするんだね」

 そう能書きともただの前置きともとれる言葉と共にその「特別室」の扉を開いてくれた。

その部屋を見て、ふたりは息を飲んだのだ。

「これはガラス?……いえ違うわ」

 その部屋は天井をとても透明度の高い紫水晶で覆われていて、まるで天井がない部屋のように一見思えた。今日のような月明かりが明るい夜は<少しだけ紫の光が降り注ぎ、その船の形をした先細りの少しだけ細長い部屋の真ん中に、大きなベッドが据えてある。

「この部屋も、船の形をしてンだな。お神輿舟やこの村の形といい、何か関係が?」

 ジタンは案内してくれた宿の者に何気なく尋ねてみた。

「なに、もともとはお神輿さまもこの村も、すんげえー昔は本当に動いで空さとんどったっちゅう話だド。けんどなんだか、この場所におちづぐことになったでよ、今はまた動けるときを待っで祈りをささげて暮らすのがあたいたちコンデヤ・パタの民だちゅう話だけんどな。この部屋も、そのときに作られたっていう古ンるい部屋だド。詳しいことはよくしらねえド」

「へえ……そうなんだ。ありがとよ」

 ジタンは一応例を言うと、宿の者はそのまま黙って引っ込んでいった。

 

Last updated 2015/5/1

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